交通安全環境研究所

1人でも多くの命を救うために 交通安全環境研究所の研究と共和電業の関わり

自動車安全 / 交通システム

昭和25年(1950年)に旧運輸省の研究所として発足以来、国が行う自動車などの陸上交通に係る施策立案・基準策定のための試験研究、自動車等の型式指定審査、自動車のリコールに係る技術的な検証などの業務を通じ、安全で環境にやさしい交通社会の構築に貢献してきた交通安全環境研究所。さまざまな試験や研究に、共和電業の機器が用いられている。詳しい研究内容や共和電業との関わりについて、松井靖浩上席研究員に話を伺いました。

長い時間をかけ、少しずつ前進してきた交通安全

―貴所の研究内容を教えてください。

自動車や鉄道などの陸上交通について、国が行う安全や環境保護に係る施策立案・基準策定のための試験研究、自動車などの型式指定審査、自動車のリコールに係る技術的な業務を行っています。研究部署としては、自動車安全、環境、交通システムの3つの研究部に分かれています。

―貴所の事業に、共和電業はどのように関わっているのでしょうか?

弊所では、共和電業社製品を自動車安全研究部、交通システム研究部において使用しています。 自動車安全研究部では、衝突実験において、車体に作用する加速度を計測しています。前面衝突実験では、壁などへ衝突させる実験車両の車体重心位置やサイドシルに作用する加速度を計測しています。また、側面衝突実験では、移動台車を停止している被衝突車の側面へ衝突させますが、移動台車の加速度、被衝突車についてはサイドシルやAピラーに作用する加速度を計測しています。それら加速度は、加速度計「ASDH-A-1KV」(感度方向が垂直)、「ASDH-A-1KH」(感度方向が水平)を使用して計測しており、電気信号の増幅及びデータ収録装置であるデータロガー「DIS-5010A」によりデータを記録しています。このような前面衝突及び側面衝突実験では、データロガー自体を実験車両のトランクルーム内や、移動台車上に設置する必要があることから、耐衝撃性が備わっているデータロガー「DIS-5010A」を使用しています。

フルラップ前面衝突試験後の自動車(奥側)、オフセット前面衝突試験後の自動車(手前側)

交通システム研究部では、主にロープウェイの安全性試験にロードセル及び動ひずみ測定器を使用しています。ロープウェイでは、乗客が乗る搬器を握索装置でロープに固定しています。搬器、乗客の重量および風の力により、握索装置がロープ方向に滑る力が発生します。握索装置がその滑る力に耐えられるかを確認する耐滑動力試験において、ロードセル「LUK-A-500KN」を使用しロープの張力を設定、ロードセル「LUK-A-200KN」により耐滑動力を計測し、動ひずみ測定器「DPM-912B」により電気信号を増幅させてデータ収録装置に記録しています。

―交通安全の基準や考え方はどのように進歩してきたのでしょうか?

1990年代前半は、1年間の交通事故死亡者数が1万人を超えており、自動車乗員の死亡者数が最も多い状況でした。シートベルト非着用の時代、衝突事故が発生すると、運転者は、高頻度で身体がハンドルや前面ガラスにぶつかり、車外放出も含めそのような要因で高い確率で亡くなっていました。1992年には一般道における前席乗員のシートベルト着用が改正道路交通法で義務付けられましたが、シートベルトを着用した場合においても、衝突事故が発生すると、運転者の身体がハンドルにぶつかり、死亡や重傷に至る事例が多数発生していました。そこで日本では、1994年に自動車を壁に衝突させるフルラップ前面衝突試験を保安基準として導入しました。フルラップ前面衝突試験は、米国運輸省で開発され、自動車同士が接近する際、完全にラップして衝突する状況を想定しています。このフルラップ前面衝突試験の導入をきっかけに、主に自動車の客室より前方に衝撃エネルギを吸収可能な構造が設けられ、3点式シートベルトの装備に加え、頭部や胸部がハンドルと衝突した際の衝撃を緩和するためのエアバッグも搭載され、前面衝突時のケガを一定程度抑えることが可能になりました。

壁に対するフルラップ前面衝突実験

また、ヨーロッパでは、自動車同士が接近する際、完全にラップせず、少しズレて車のフロントの一部が衝突するオフセット前面衝突試験が開発され、日本ではこれを2007年に保安基準として導入しています。弊所には、次の世代の新しい安全基準を作るという大きな役割がありますが、技術も、安全基準も、一朝一夕で進歩するものではありません。交通安全の安全レベルも然りで、1歩1歩、少しずつ前進して交通事故を減少させていくものと考えています。

ラップベルト及びショルダーベルトにそれぞれ装着した張力計

物事の真理心髄を探求し続けた30年

―松井先生の研究内容について教えてください。

人を中心とした研究を主に行っています。元々は衝撃生体工学といったバイオメカニクス、そして歩行者を保護するための研究を主に行ってきました。最近では、自転車乗員を保護するための研究や、交通事故の発生要因を把握するために、ドライバーの運転特性も研究しています。

―その研究に、共和電業はどのように関わっているのでしょうか?

約30年間に渡り、自動車乗員の保護のための前面衝突試験や側面衝突試験を始め、さまざまな試験や安全基準の策定に携わってきましたが、とりわけ、交通弱者である歩行者や自転車乗員をどのように保護するのかを研究し続けてきました。ISOの歩行者頭部保護試験法の作成にあたっては、2000年から2005年にかけて、止まっている車のボンネットや窓ガラス等に衝撃させる歩行者の頭部ダミー、いわゆる「歩行者頭部インパクタ」をゼロから開発しました。

歩行者頭部インパクタ

機械式加速度計の内部には片持ち梁があり、その梁のたわみをひずみゲージによって計測することで、加速度を算出しています。衝突試験では、機械式加速度計を主に使用してきましたが、ガラス面などの脆性材料に衝撃する場合、ガラス面が破損する際に発生する振動により、機械式加速度計の片持ち梁が共振することで、衝撃による加速度よりも大きな値が計測されてしまう場合があります。それに対して、共振現象を抑制するためのオイルが内部に封入されている減衰式加速度計「ASE-A-500」を使用することで、精度の高い計測が可能となっています。 また、「歩行者頭部インパクタ」には複数の通信用ケーブルが接続されており、試験時にはケーブルの質量により慣性力が作用し、挙動が変化してしまう場合がありました。そこで、「歩行者頭部インパクタ」に内蔵型データ収録装置「DIS-503A」を組み込むことで無線化し、ケーブルレス化を実現するとともに、自転車乗員用ヘルメットを装着した場合の実験を行うことが可能となりました。

ヘルメットの衝撃実験

―研究において、大切にしていることを教えてください。

目を閉じて思考し、「物事の真理心髄は何なのか?」を純粋に探究し続け前に進むこと、そういう姿勢が大切だと思いますし、それは、技術を突き詰め続けてきた共和電業さんの考え方にも通ずるところがあるのではないでしょうか。技術的な課題は常に目の前にあり、寝ても覚めても、「なぜなのだろう?」と問い続ける毎日です。実際、交通事故の発生メカニズムにはまだまだ謎が多いですが、現象のメカニズムを把握できれば、対策の手立てはある。そうやって1歩ずつ前進していくことが重要なのではないかと思います。

たとえば、自転車乗員のヘルメット着用の効果を研究し、そのデータを公開した結果、警察庁に注目していただき、2023年の4月から、全年齢帯の自転車乗員のヘルメット着用が努力義務となりました。これによって、それ以前はヘルメット着用率が低かったですが、現在では各都道府県の平均で13.5%まで向上しました。つまり、10人に1人はヘルメットを着用するようになってきました。たとえ1割でもヘルメットの着用率が上がったことは、人の命の救済に直接繋がりますので大きな意義があり、また1歩、前へ進めたのではないかと感じています。今後、ヘルメットの着用率がより向上することを期待しています。

交通安全環境研究所が見据える未来

―貴所の研究の今後の展望と、そこに共和電業がどのように関わっていくことを期待しているのかを教えてください。

車両の多様化とともに、さらなる衝突形態の詳細化、複雑化が予想される中で、衝突試験の効率化を図るため、シミュレーション技術が導入され始めています。車や人をモデル化したそのシミュレーション技術の確からしさをチェックするうえで重要となるのが、実車を用いた検証実験により得られるデータであり、そのデータを得るための高精度な計測器は必要不可欠です。 また、交通事故の発生メカニズムには未解明なところもあり、今後も実際の交通環境における人の特性を詳細に把握していくことが重要となります。共和電業さんには、今後も信頼性の高い高精度のセンサーや計測器を開発していただき、さまざまな研究や開発、それによって得られる技術の発展により、人の命を1人でも多く救うという観点から、社会に貢献していただくことを期待しています。

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